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米国動向スペシャル 保険 未来型企業保険
ビジネス トレンド マガジン [COME to AMERICA] vol.21
マーシュUSAインク 日系企業担当部
(ジャパン・クライアント・サービシズ)
シニア・バイス・プレジデント 村山 知生
新会社法が施行されたことにより、現在多くの日本企業がリスクマネジメントの改善に取り組んでいるが、米国企業に比べるとその体制はまだ「不十分」の観が拭えない。本章では、様々なリスクマネジメントの中から「災害時のビジネス継続と収益の確保」に焦点を当て、米国流リスクマネジメント手法について解説したい。
エンロン事件をはじめとする大規模な企業不祥事を契機に、米国ではSOX法が制定され、内部統制における経営者の責任が明確化された。日本においても、2006年5月1日に施工された会社法により、商法特許法上の大会社に対する内部統制システムの構築義務が明文化されている。また業務の適正を確保するために、リスクマネジメントの規程と体制の構築が取締役会の専権事項となった。その結果、現在多くの日本企業が会社を挙げてリスクマネジメントの改善に取り組んでいる。しかし残念ながら、日本企業のリスクマネジメントは米国企業と比べると不十分であることが多く、依然として米国企業から学ぶべき分野であるというのが現状である。
日米の考え方の違い
リスクマネジメントを遂行する上で、多くの日本企業は、リスクに正面から向き合おうとしない傾向がある。
日本の工場を訪問し、施設管理の担当者に「この製造ラインが火災で全焼になった場合、復旧期間についてはどの程度を想定していますか」という質問をすると、多くの場合、「この工場は火災が発生しないよう万全の体制をとっている」という趣旨の回答と共に、「消防法の遵守」や「従業員の防災教育の徹底」などに関する説明が返ってくる。
防災はリスク管理の有効な手段ではあるが、それだけでリスクをコントロールすることはできない。実際近年も、製油所や自動車関連工場で大規模な火災は発生しており、消失した財物のみならず売上高の減少という点においても、被災企業に甚大な損害をもたらしたことは記憶に新しい。
多くの日本企業にとって、製造ラインの全焼は「あってはならないこと」であり、この「あってはならないこと」を前提に施設管理の担当者が損害額やビジネスの継続方法を検討しようとすると、これは「自らの管理手法に瑕疵を認められるのも同様」との理由で、上司から叱責を受けることになる。
そしてもし、この「あってはならないこと」が不幸にして起こってしまった場合、通常、鎮火後の記者会見で「このような事態は想定していませんでした」と社長が釈明し、その会社のリスクマネジメントの欠如を世間にさらすことになるのである。もしこれが米国であれば、株主の失望と怒りを買い、最悪の場合には経営陣の総退陣ということにもなり得るであろう。
多くの米国企業は、あらゆるリスクを事前に想定し対策を講じることを積極的に行っている。特に上場企業では、株主をはじめとするステークホルダー(Stakeholder)に対し常に十分な説明責任(Accountability)を果たすことがリスクマネジメントの重要な目的の一つと考えられており、「このような事態は想定していませんでした」と釈明することこそ「あってはならないこと」と認識している。したがって、不幸にして災害や事故が発生した場合でも、代替生産の開始に要する期間やコスト、在庫・代替品でカバーできる期間、マーケットの規模などを速やかに説明する。更に、財物の損失や売り上げの滅少がどの程度まで保険やその他の方法によってカバーできるのかを示すことで、株主の失望や株価の下落という事態の回避に全力を挙げる。
不測の事態に陥った時に速やかに状況を分析し、ビジネス復旧に要する期間やコストを発表することは容易ではない。平常時からリスクを十分に分析し綿密なプランを策定、またその運用計画が組織に根付いていて初めて可能となる対応なのである。
米国流のビジネス継続マネジメントとは?
ビジネス継続マネジメント(BCM)とは、災害、事故などが発生した場合に生じるビジネスへのインパクトを最小限に抑え、速やかにビジネスを復旧させるためのリスクマネジメントである(図1参照)。米国ではかなり以前から普及しており、日本においては、経済産業省が2005年「事業継続計画策定ガイドライン」を制定し企業に導入を促したことから、この構築を目指す企業が多くなった。
図1 ビジネス継続マネジメントBCM
:Business Continuity Management

BCMは3つのプラン(緊急対応プラン、クライシスコミュニケーションプラン、ビジネス復旧プラン)から構成されている。これらは互いに補完的な役割を担っており、組織に重要な各種管理体制と関係している。クリックすると大きく表示されます。
BCMの構築とは自社を取り巻くリスクの現状を評価・分析し、その結果から事業継続の手段を洗い出して、運用計画を企業に根付かせていくプロセスである。もちろんBCMの構築は容易ではない。しかし、「危機」が企業の価値に重大な影響を与える可能性があることを考慮すると、BCMの構築は内部統制の優劣を判断する際のベンチマークとして欠かせない存在であり、今後ますます重要視されると考えられる(図2参照)。
図2 BCMの導入効果について

危機的事態に適切な対応をした企業と、しなかった企業の株価を比較すると、明らかな差が見て取れる。クリックすると大きく表示されます。
「BCMを生かした米国製造業のビジネス継続プラン」の例を次に挙げてみる。
▼製造業A社の場合……A社では、決してマーケットシェアを落とすことのできない製品を売上高や利益率などによって数種類選択し、それらをリスクマネジメント上優先すべき製品と位置付け、他の製品とは異なるビジネス継続プランを策定している。これらの製品の製造ラインでは、工場が火災などで罹災した場合を予期し、他製品とは代替のできない特注品の製造設備に予備を用意している。そしてそれらの予備設備を製造ラインとは別の耐火区画の建物で保管することにより、当該製造ラインが罹災した場合でも、別の場所で迅速に生産を復旧できる体制を構築している。
▼製造業B社の場合……B社はライバル会社の動向を分析し、マーケットシェアを奪われやすい製品を選択した上で、製品在庫の量を決定している。すなわち、マーケットへ製品供給が滞った場合に即マーケットシェアを奪われてしまう製品については、不測の事態でも常に製品を供給できるよう、大量の在庫を複数の倉庫に分け保管している。多くの企業がロジスティックの合理化によるコストダウンに腐心する中、B社はリスクマネジメントの観点からあえてこの逆を行い、災害時でも生き残ることができる体制を構築している。
A社、B社に共通しているのは、市場における自社製品の競争力を分析し、それをリスクマネジメントに生かしている点である。いったんライバル会社にマーケットシェアを奪われてしまうと、それを回復するのに長い時間と膨大なコストが掛かることを想定し、そういったリスクの軽減のために平常時から対策を取っているのである。
ビジネス中断のリスクをカバーする保険
ビジネス中断のリスクをカバーする保険がある。「利益保険(Business Interruption Insurance)」と「営業継続費用保険(Extra Expense Insurance)」(※)がそれで、米国においては極めて広く普及している。製造業の90%以上は加入していると推定される。建物や設備の損害が財物保険でカバーされても、減少した利益がカバーされないのでは株価の下落は避けられない、そのため、株主を意識したリスクマネジメントを実践する多くの米国上場企業にとってこれらの保険は必須である。
一方、日本においては利益保険の普及率が極めて低く、加入企業は製造業の20%以下と考えられる。この主たる要因としては、日本の保険の自由化が遅れていることと、保険会社が利益保険を積極的に販売していないことが想定される。また、企業が株主利益を意識したリスクマネジメントを実践していないことも原因の一つであろう。
グローバル企業のビジネス継続マネジメント
世界各国に製造、拠点を持ち世界のマーケットで製品を販売するグローバル企業は、グローバルな視点でBCMを構築し、また、グローバルな視点で保険プログラムを設計しなければならない。
米国の多国籍企業は、経営トップの強い指導力を生かし各国の現法を統制することでこれを実践しているが、日本企業の多くは、本来リスクマネジメントのリーダーシップを執るべき日本本社が機能を発揮できない場合が多く、日本は日本で、米国は米国で、と各国任せになってしまうことがよくある。海外のリスクマネジメントを海外現法に任せる主な理由として、「米国のリスクは米国の担当者が一番よく理解しているから」といったことをしばしば耳にするが、これではグローバルなBCMの構築は困難である。
例えば、日本の企業が中国で製品を生産しそれを北米に輸出して販売する場合、北米現法の売り上げは中国の生産拠点に依存することになる。このような場合、たとえ米国現法が米国内のリスクに対して完壁なBCMを策定しても、中国から製品が来なければ商売にはならないので、結果的にはグローバルなBCMが必須となる。したがって、中国の生産拠点が罹災した場合のBCMについては、日本本社がリードしてそのリスクを評価・分析し、北米現法と共有した上で推進していく必要がある。
また、保険プログラムについても同様で、グローバル企業の保険プログラムはグローバルな視点でリスクを評価・分析した上で設計し、手配されなければならない。
例えば、先の中国のリスクを例に挙げると、中国の生産拠点で事故が発生した場合の北米の売り上げ減少は、CBI(Contingent Business Interruption<構外利益リスク>)、もしくはGI(Group Interdependency<グループ内相互依存リスク>)と呼ばれる保険カバーを利用し、中国の生産拠点を利益保険の対象に加えることによってリスクヘッジをすることができる。ただし、国外で発生した事故をカバーすることになるので、リスクを引き受ける保険会社に対して、かなり詳細なリスク情報(中国の生産拠点の消火設備などを提供しなければならない。そのため、北米現法が単独で保険を設計するのではなく、本社や生産拠点と緊密に運携した上でリスクを評価・分析し、保険プログラムを設計しなければならない。
多くの日本企業は、そのサービスや製品開発力、生産技術において、米国のライバル企業を凌駕している。しかしリスクマネジメントの分野においては、米国のライバル企業が採用しているグローバルな視点に立ったBCMや、利益保険を含むグローバル保険プログラムなど、先進的リスクマネジメント手法を参考に、自社の二ーズやリスクに合致したより効率的なプログラムを構築していくことが、競争に勝つために求められているのではないだろうか。
日本企業においては、様々な内部事情から、これらの対策を講じている企業はまだ少数であるが、日本の会社法がリスクマネジメントを取締役会の責務とし、また海外拠点を含む企業集団全体に適用を求めていることから、今後このような動きが加速されていくものと思われる。
※災審や事故で製造施設やオフイスビルが罹災し、ビジネスが中断した場含の損失や追加支出のコストをカバーするもの。保険カバーの詳細は契約ごとに異なるが、「利益保険」は通常、災害や事故が原因で売上高が減少した際の減少分の補填を基本的な保険カバーとしている。また、「営業継続費用保険」は、災害や事故によってビジネスに支障を来した場合の、ビジネス継続のために余儀なくされる出費・追加費用を力バーする。
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