Japan
Marsh Worldwide
Japanese | English
月刊シニアビジネスマーケット連載
「【高齢者の資産運用】シニア資産・保険マーケットへのアプローチ(8)」
団塊世代の大量退職時代を目前に企業が模索する「定年後の福利厚生」
マーシュ ジャパン株式会社
アフィニティチーム
アカウント エグゼクティブ
宮本 宣幸

従業員の「定年後」に企業が目を向けはじめた

 連載第8回、第9回では、企業退職者向けの新しいビジネスモデルについて考察する。

 団塊世代が定年を迎える大量退職時代を目前に控えた企業は、年金制度改革(代行返上や給付減額、確定拠出年金への移行等)や退職金・給付金関連の制度改定を余儀なくされており、国際会計基準の適用も制度改定のテコ入れ材料となっている。このような制度改定の流れの中で、従業員福利厚生の一環として、退職後の生活サポートに主眼をおいた支援制度を導入する企業が増加している。

 福利厚生制度は、企業が営利活動を行う際に、従業員の生活上の負担を軽減したり、労働環境を整備することにより、業務に邁進しやすい土壌を醸成し、間接的に業務効率化に繋がるものとして位置づけられていた。そのため、従業員が在職中に享受した福利厚生(ベネフィット)制度によるメリットは、通常、退職と同時に失われるものと理解されてきた。しかし最近、少子高齢化等を背景に、退職した社員の生活支援制度を整備することが、株主価値および企業価値向上につながる手段になり得ると捉える企業が増加している。

 連載第8回では、多くの企業が採用している福利厚生制度を紹介し、従業員が在職中にどのようなメリットを享受しているかを把握した上で、退職後に求めるニーズを検討する。

福利厚生制度のあらまし

■社内預金・財形貯蓄制度■

 
月刊シニアビジネスマーケット
2005年4月号 第9号
発行元 綜合ユニコム株式会社
関連サイトはこちら
従業員の自助努力による資産形成を支援する制度として、福利厚生制度の中で最も普及しているのが「財形貯蓄制度」と「社内預金」である(図表1)。財形制度(勤労者財産形成促進制度)は、勤労者の財産形成に対し、国が利息への課税優遇等、税制面から援助し、企業もこれに協力することにより、勤労者の貯蓄や持家の取得を促進させることを目的として1971年に制定された。現在この制度には、一般財形、財形年金、財形住宅等があり、94.6%の企業が導入しており、ほとんどの企業で実施していると言える。

 一方、社内貯金は、近年の低金利下、厚生労働省設定の社内預金下限金利も1999年4月より0.5%にまで引き下げられた。従業員にとって従来ほど“うまみ”のある制度ではなくなってきていることに加え、事務手続きの煩雑さも手伝って、廃止する企業が増加し、財形貯蓄制度や金融機関と契約して給与天引きを行う外部積立預金に移行する傾向にある。

■住宅関連制度■

 企業が実施する従業員の住環境に関連する制度としては、「社宅制度」と「住宅融資制度」が挙げられる。社宅制度を実施する企業は83%あり、その内訳は「借り上げ社宅のみ」が43.5%で最も多く、次いで「社有・借り上げともあり」が34.9%、「社有社宅のみ」は5.3%にとどまっている(2004年、(財)労務行政研究所調べ)。社有社宅より借り上げ社宅が格段に多い理由には、転勤をはじめとした短期間のニーズへの対応のしやすさや維持管理の手軽さ等が挙げられる。

 一方の住宅融資制度には、実施主体により自社融資、共済会融資、財形転貸融資、年金転貸融資、銀行提携融資等がある。住宅融資制度を実施する企業は68.3%と約7割が何らかの制度を実施する。大企業ほどその割合は高く、従業員3,000名以上の企業の97.3%が実施。一方、1,000名未満の企業の実施率は57.9%と6割弱である(図表2)。

■業務・通勤災害、私傷病時の補償制度■

 従業員の業務中および通勤途上時の傷病(労働災害)に対する補償制度には、法定内労災補償と法定外労災補償がある。法定内労災補償は、業務上の事由または通勤途上中によるケガ・病気、障害または死亡について給付を行うもので、原則としてすべての企業に労働者災害補償保険法により義務付けられている。また、法定外労災補償は、法定内労災補償の上乗せ給付として企業の任意で導入されており、導入率は53%である(2000年、(財)生命保険文化センター調べ)。

 労働災害による死亡者数は減少傾向にあるものの、2001年12月に過労死認定基準が大幅に緩和された後、過労死による労災認定が増加している。こうした中、労災の上積み補償への関心が高まっている。法定外遺族補償額は、扶養者の有無により支給水準が異なる「有扶・無扶別」設定において、平均額は有扶が3,185万円、無扶が2,676万円、扶養者の有無に関係なく一律設定が3,071万円(2004年、(財)労務行政研究所調べ)となっている。

 一方、業務中以外の私傷病に対する補償制度は、企業の任意で導入されており、導入率87.3%(2000年、(財)生命保険文化センター調べ)である。私傷病に対する補償制度は業務上の傷病とは異なり、健康保険法による給付が補償されているだけで、制度の取扱いは各企業の就業規則等によるところが大きい。また、従業員が死亡あるいは高度障害を負った場合の死亡退職金や弔慰金規程等に基づく遺族補償金や生活保障金の財源確保を目的として、多くの企業が利用しているのが総合福祉団体定期保険で、全産業の54.3%の企業が加入している(2004年、労務行政研究所調べ)。病気やケガで入院した場合の補償には、健康保険からの療養給付等があるが、健康保険適用対象外の従業員の医療費用負担(自己負担3割部分や入院時の差額ベッド代、高度先進医療による治療等)を軽減する目的で、医療保険に加入する企業も最近増加している。私傷病により会社を休職する場合の賃金補償は、健康保険からの傷病手当金給付(標準報酬日額の60%を最長18ヶ月間)に企業や共済会の給付を付加される形が一般的である。給付主体は健康保険が中心ではあるものの、健保以外に企業または共済会からの上乗せ給付を実施している企業は61.5%にのぼる(2004年、(財)労務行政研究所調べ)。

 最近は、企業や共済会からの給付財源を確保する目的で、長期障害所得保障保険を利用する企業が特に増加している。こうした企業が導入する福利厚生に関する保険は、企業による保険料拠出と従業員の給与天引き等による拠出から構成され、従業員個人の自助努力を援助するため、任意加入型保険制度(カフェテリアプラン)を導入する企業が多い。カフェテリアプランは、企業側の福利厚生に関する保険への保険料負担を一定額内に抑えるとともに、従業員にとっては団体割引等により個人で同じ保険に加入する場合と比較して数%から数十%安く加入することができるため、非常に大きなメリットとなっている。

福利厚生制度の方向は?

■福利厚生費の動向と今度の見直し■

 企業が負担する福利厚生費である法定福利費(健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険・児童手当拠出金等)と法定外福利費(財形、住宅、慶弔金等)は、社会・労働保険料の上昇を主因として、法定福利費は増加傾向にある。

 
画像をクリックすると大きく表示されます
一方、企業自らが管理できる法定外福利費は、「寮・社宅の統廃合」をはじめとした住宅費用の削減、「各種補助やレクリエーション費用の廃止」や前述の「従業員任意加入型保険制度(カフェテリアプラン)の導入」等の経費削減策の実行により前年比横ばいか減少傾向にある(図表3)。

 今後の見通しは、法定福利費は「増加する」、法定外福利費は「横ばい」「減少する」とする企業が多い(図表4)。法定外福利費は、従業員30,000名以上の企業では「減少する」とする割合が多く、大企業ほど福利厚生費の削減意欲が強い。義務的な法定福利費の継続的な増加に対して、法定外福利費の削減で対処しようとする姿勢が見受けられる。

■企業の姿勢は?■

 膨らみゆく法定福利厚生費の傍ら、企業は経済変動に対応し得る低コスト体質(固定費削減)の実現を求めて、法定外福利費を合理化・抑制の対象とする事例が多く見られる。従業員のニーズを踏まえた福利厚生制度の淘汰、アウトソーシング制度、従業員任意選択型制度(カフェテリアプラン)の導入等は、企業の固定費削減戦略の一環として取られる措置の一例である。また、雇用の流動化や社員の価値観・意識の変化も、企業が福利厚生制度を見直す契機となっている。

 今後の企業における福利厚生制度の方向性としては「企業の全面的な支援はある一定範囲内にとどめ、従業員の自助努力を促進させる支援をすべき」という思考が定着すると予想される。

定年後の「生活保障」と「資産運用」をどうするか?

 これまでみたように、在職中の従業員は、非常に手厚いさまざまな福利厚生(ベネフィット)を享受している。そのしくみは、従来型の企業側が全従業員へのあらゆるものを一律給付する包括的な制度から、制度をスリム化して企業負担を抑制しながらも従業員のニーズに合致した制度を整備し、従業員の自助努力を支援する内容へと変貌を遂げつつある。

 公的保障の先細りや企業の退職金・年金制度改革(給付減額や確定拠出年金への移行等)が進む中、従業員の老後生活保障の安定を求める声がますます高くなると予想される。在職中は会社の福利厚生制度によって、貯蓄や住宅もさることながら、健康面ではことのほか健保の他、各企業の任意加入型保険制度などによる恩恵を享受してきた。退職後の最大の関心事は、自己の「死亡リスク」と「生存リスク」にどのように備え、対応していくか、というリスクマネジメントであろう。

 死亡リスクへの対策は、日本では保険会社が規定する健康条件を満たせず保険に加入できないケースを除けば、概ね死亡保障保険で事足りている。但し、保険期間が60歳満了などの定年に合わせて設計されている定期保険などは、加入内容によって注意を要する。

 一方で、生存リスク―長寿時代をどのように生き抜くか―への対策には注力しなければならない。具体例としては、入院時の医療費への備えや、最近では介護への備えもニーズが高まっている。

 また、退職金を、安定した豊かな老後生活を送るためにいかに運用していくかも非常に重要であり、退職金運用を「将来の収入を準備する」と捉えると、インフレ対策を重要視せざるを得ない。日本では1970年代から80年代にかけて、預貯金金利よりも物価上昇率が高い時期もあった。これからの10年、20年、30年という長期間を考えると経済状況の予測は難しく、インフレ対策を講じておくことも必要だろう。現状のデフレ状況が続くのであれば、預貯金や公社債、定額型の年金保険等での対応で事足りるだろう。しかしインフレ対応となれば、株式や投資信託運用、最近登場した有価証券類で運用する対応の変額年金保険等が合理的ではないだろか。

 今、企業では退職後の従業員の「生活保障」と「資産運用」ニーズを満たす制度の構築が急務であろう。筆者の在籍するマーシュ ジャパンのアフィニティチームでは、このような企業の法定外福利厚生プランの構築や運営に関して、コンサルテーションから実際の保険手配や制度運営まで幅広くサービスを提供し、大量退職者時代を迎え、退職後の従業員の福利厚生を模索する企業を支援している。

 次回は、企業の退職者向け福利厚生制度の取り組みを紹介するとともに、退職者・退職予定者をセグメントされたマーケットとしてとらえた具体的なシニアビジネスモデルの構築について考えたい。


マーシュ ジャパン株式会社
リスクマネジメント及び保険関連サービスを提供するマーシュ・インクの日本法人。アフィニティチームでは、個人顧客基盤を有する企業を対象に保険プログラム並びに従業員向け福利厚生制度の構築・運営を担当し、保険のスペシャリストとしてのコンサルテーションノウハウと独自のCRMシステムを駆使したコールセンター業務運営方式を融合させたフルアウトソーシングモデルを提供する。


宮本 宜幸(みやもと よしゆき)

都市銀行、外資系生命保険会社を経て現職。マーシュ ジャパンでは、グローバル企業における福利厚生制度の立案・導入、CRMシステム・コールセンターを活用した任意選択型保険制度の構築・運営サポート、アウトソーシングを取り入れた福利厚生制度モデル提案等に従事する。学習院大学法学部卒。
画像をクリックすると大きく表示されます
  Marsh & McLennan Companies